この回の結論
JD-08 はインスパイアリングな楽器だ。トラックの出発点として優秀だし、影響力のあった90年代初頭のプロ機の DNA ははっきり残っている。ただし Roland は手抜きもした。まず ROM エクスパンションが無いこと、そして疑問の残るフィルターの選択。これに Boutique という筐体そのものが加わって、オリジナルのファンの多くは逃げていくだろう。公式のソフトエディターも無いので、似た音のプラグインの方が魅力的に見えてくる。そのプラグイン、Roland の JD-800 ソフト音源もぜひ試したい — 向こうがクラウドサービスをインストールさせるために俺に賄賂を渡してくれるなら、の話だが。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。Roland の機材を番組に載せるのは実家に帰ってくるような気分だと言う。廊下は郵便受けの隙間から塗ったとしか思えない色で、屋根はデカすぎるか小さすぎるかのどちらか、リフォームは半分で止まっていて、パントリーには80年代スタイルの TV ディナーが詰まっている。
- 今回は JD-08。1991年の伝説的な JD-800 を滑稽なほど縮小したデジタルシンセで、2022年に出るなり シンセ界隈で物議を醸した。オリジナルはミニマルな UI とメニュー潜りの軛からシンセシスを解放した機材で、ばかげた数の物理コントロールが並んでいたのが売りだった。
- Boutique シリーズの新入り JD-08 は一見すべての条件を満たしている。本家の冷蔵庫マグネット版だ。フェーダーもちゃんと付いている。
- そのフェーダーはもちろん侮辱としか言いようがないサイズ。前面には複雑なエンベロープ構造の威圧的な図解がスペースを占領していて、そこは本来まともな UI に使えたはずの土地だ。あとはお馴染みの Roland Boutique 的制約。少し大きめのフェーダーが4本あり、最後にいじったパラメーターに自動アサインされる。
- David Letterman でお馴染みの90年代初頭のオリジナルには古臭くとも機能するディスプレイが2つ付いていたが、こちらは4文字の骨董品的時限爆弾で我慢しろということになる。JD-08 のメニュー構造というデジタル荒野にパラメーターが大量に埋まっているので疲れる。とはいえオリジナルと違って、例の赤い接着剤の問題にはまだ遭遇していない。
- ポリフォニーはサンプルベースで合計128ボイス。1つのパッチにつき、ほぼ独立した4つのトーンレイヤーに割り振れる。
- オリジナルの6マルチティンバーパートのうち Boutique に載ったのは2つだけ。それでもシンセエンジンをフルに使い切った状態で16ボイス残るので、これは改善と言っていいしレイヤーやスプリットにも余裕がある。
- 波形はシンセの定番から D50 的な良さ、そして毒にも薬にもならない80年代のチーズまでを行き来する。ただし JD-08 は ROM エクスパンションカードには一切アクセスできないようだ。
- Sound on Sound によれば、Roland は JD-800 のフィルターを実装せず、汎用の ZEN-Core 系のものを使ったとのこと。レゾナンスの扱いには本当に気をつけろ。多段エンベロープは時間をかけて変化していく音作りに強い。
- アンプエンベロープのバイアスコントロール、本格的な LFO 2基といった、旧世代のプロ機的な機能も載っている。
- この強力な音作りキットの締めが、クラシックなアルゴリズム2ブロック構成の FX セクション。そして往年の変な routing 制限付き。これだけ揃えて何ができるかというと、90年代のドキュメンタリーで必ず聞いたあのパッド1個だ。
- ベル系、擬似アナログ系、Rompler っぽい調合物。ポリシンセに16ステップのモノシーケンサーを載せ続けて何年も経った後、Roland はついに本気を出した。
- 驚くほど完成度の高い2トラック64ステップのポリフォニックシーケンサーで、ベロシティとコントロールチェンジまで記録できる。アルペジエーターもありがたい。クロック入力もあるが、USB-C 使用時にノイズ問題に遭遇した。
- ミニジャック端子は相変わらず最低だが、5ピン MIDI 端子が最後の抵抗を続けているのを見るのは常に嬉しい。ただ Roland 製品なので、MIDI 実装もマニュアルも中途半端。他の Boutique 同様、新品で400ドル前後。試聴機を貸してくれた Klangfarbe に感謝。JD-800 本体はご多分に漏れずばかげた値段になり、スタジオの場所も食いすぎる。
- では JD-08 はオリジナルの代替として成立するのか。イントロ曲で既に Boutique の音は聴いている。あれは本家とは違う音だが、個人的には嫌いじゃない。もっと空気感のある音をダウンテンポのジャムで探ってみる。
- 正直、楽しかった。極小のコントロールをいじる感覚はたしかにばかげているし、目はずっとパラメーター表示に釘付けになる。
- それでも、あのアイコニックな波形をジェットコースター級のエンベロープ群で形作るのは予想以上に面白い。次は物議を醸したフィルターを Palette フェーダーで揉んでみる。
- 結果は玉石混交。密集した波形の束を整理する用途ではフィルターはちゃんと仕事をするが、モノベースをいじり倒す用途では第一候補にはならない。気をつけないと高域でかなり凶悪なことになる。
- JD-08 が本当に輝くのは、手の込んだレイヤーの可能性にちゃんと時間を使ったとき。というわけで、ヒストリーチャンネルにそのまま出せそうな一曲で実演する。90年代初頭のニューエイジ・キッズウェイヴほど80年代らしいものはない。
- 「no no no no...」の連呼の後、Verdict へ。JD-08 はインスパイアリングな楽器で、トラックの起点として優秀、90年代初頭の影響力あるプロ機の DNA も明白。ただし Roland は怠慢なショートカットを取った。
- 何より ROM エクスパンションの欠如と、疑問の残るフィルター選択。それに Boutique という筐体が加われば、オリジナルのファンの多くは逃げる。公式ソフトエディターも無いので、似た音のプラグインが魅力的に見えてくる。その Roland の JD-800 ソフト音源も試したい — 向こうがクラウドサービスをインストールさせるために賄賂をくれるなら。
- いつもの締め。高評価・登録・Patreon 支援と、次に扱ってほしい機材のコメントを募集。